最終更新日:2026年8月15日
66MWの大規模パーム油発電所は、なぜ建設されなかったのか
京都府舞鶴市の喜多地区では、パーム油を燃料とする大規模な火力発電所の建設が計画されていました。
計画されていた発電所の出力は約66MW。年間に使用するパーム油は約12万トンに達する大規模な計画でした。
事業主体として「舞鶴グリーン・イニシアティブス合同会社」が設立され、投資会社AMP Energyや日立造船などが事業に関わっていました。
私たちは、この発電所計画を知ったことをきっかけに、地域住民として事業内容の調査を始めました。
情報公開請求、住民説明会への参加、署名活動、行政や事業者への質問、経済産業省・環境省への陳情、環境NGOとの連携、投資家や金融機関への働きかけ、さらに日立造船の株主総会への参加など、さまざまな方法で計画の問題点を明らかにしていきました。
2020年4月にはAMPが事業から撤退し、同年6月には日立造船も舞鶴のパーム油発電事業から撤退する方針を明らかにしました。
その後、事業会社は解散手続きへ進み、発電所は建設されることなく計画は消滅しました。
舞鶴パーム油火力発電所計画
→ 計画撤退
この一連の活動が、現在の「バイオマス発電問題を考える」の原点です。
舞鶴で計画されていた発電所
当時の資料などから確認できる主な計画内容は次の通りです。
建設予定地
京都府舞鶴市喜多地区
事業主体
舞鶴グリーン・イニシアティブス合同会社
燃料
パーム油
発電出力
約66MW
年間燃料使用量
約12万トン
利用予定制度
FIT(固定価格買取制度)
約66MWという規模は、当時の国内のパーム油発電計画としても非常に大きなものでした。
私たちは当初、この計画を単純に「再生可能エネルギーの発電所」として見るのではなく、
どのような燃料を使うのか。
地域の生活環境へどのような影響があるのか。
災害時の安全性は確保されるのか。
FIT制度を利用することは適切なのか。
という視点から、一つずつ確認していきました。
「再生可能エネルギー」という言葉だけでは判断できない
パーム油は植物由来であることから、当時のFIT制度ではバイオマス燃料として扱われていました。
しかし私たちは、発電所で燃焼する部分だけを見て環境負荷を判断することには疑問を持ちました。
パーム油が発電所へ届くまでには、
農園開発
↓
アブラヤシの栽培
↓
搾油・精製
↓
海上輸送
↓
国内輸送
↓
発電
という長い工程があります。
パーム油の主要生産地では、アブラヤシ農園の拡大に伴う熱帯林の減少、生物多様性への影響、泥炭地開発、温室効果ガス排出、人権や労働問題などが以前から指摘されていました。
FoE Japanやウータン・森と生活を考える会などからも、こうした問題について多くの情報提供を受けました。
私たちが強く疑問に感じたのは、
「海外から大量のパーム油を輸入して燃やす発電を、本当に持続可能な再生可能エネルギーと呼べるのか」
という点でした。
福知山で実際に起きていた騒音・悪臭問題
私たちが舞鶴の計画に強い問題意識を持つきっかけの一つとなったのが、隣接する福知山市で稼働していたパーム油発電所でした。
福知山では、発電所周辺の住民から騒音や悪臭など生活環境への影響が訴えられていました。
私たちは福知山の住民とも連携し、現地で何が起きているのかを確認しました。
そこで感じたのは、舞鶴の問題は単なる「将来起こるかもしれない心配」ではないということでした。
近隣の福知山市では、すでにパーム油発電所が稼働し、周辺住民が実際に生活環境上の問題を訴えていたからです。
そのため私たちは、
「舞鶴では同じ問題が起きないのか」
という視点から、事業者が示した騒音、悪臭、大気環境などの予測資料について確認を進めました。
FoE Japanも、その後、福知山のパーム油発電所で住民が騒音や悪臭を訴え、公害調停にまで発展したことを記録しています。
私たちが問題視した主な論点
舞鶴での活動は、単純に「発電所に反対する」というものではありませんでした。
まず計画を調べ、何が問題なのかを確認することから始めました。
私たちが主に問題視したのは、次のような点です。
- 騒音・低周波音
- 悪臭
- 窒素酸化物など大気環境への影響
- 地震や液状化など災害時の安全性
- 舞鶴湾周辺での事故や燃料流出リスク
- 年間約12万トンという大量のパーム油調達
- 熱帯林や生物多様性への影響
- ライフサイクル全体での温室効果ガス排出
- FIT制度を利用することの妥当性
- 地域住民への情報提供と合意形成
当時、私たちが調査した資料や活動経過については、現在も記録として公開しています。
「舞鶴西地区の環境を考える会」を結成
発電所計画に疑問を持った地域住民らで、**「舞鶴西地区の環境を考える会」**を結成しました。
私たちは、計画の問題点を感覚だけで訴えるのではなく、できるだけ資料や事実に基づいて活動することを重視しました。
情報公開請求を行い、行政文書や事業計画を確認する。
住民説明会に参加して質問する。
福知山で実際に起きている問題を調べる。
専門家や環境NGOから情報提供を受ける。
集めた情報をホームページやSNSで公開する。
そして署名活動や行政・企業への働きかけにつなげていきました。
活動が進むにつれ、舞鶴だけの地域問題ではなく、パーム油発電とFIT制度そのものの問題へと視野が広がっていきました。
経済産業省・環境省へ直接陳情
私たちは、舞鶴市や事業者への働きかけだけでは十分ではないと考えました。
パーム油発電は国のFIT制度を利用して進められていたからです。
そこで2020年1月には福知山の住民らとともに上京し、経済産業省と環境省を訪問して陳情・意見交換を行いました。
舞鶴で計画されている発電所の規模や地域住民の不安、福知山で実際に発生していた騒音・悪臭問題、パーム油の大量消費、環境問題、FIT制度のあり方などについて国へ直接説明しました。
私たちが国へ訴えたのは、
「舞鶴の発電所を止めてほしい」
ということだけではありません。
より大きな問題として、
「大量の輸入パーム油を燃やす発電を、国民負担を伴うFIT制度で支援することは本当に適切なのか」
という点を問題提起しました。
住民から集まった署名や意見も国へ届けました。
この活動を通じて、舞鶴の問題は地域だけの問題ではなく、日本の再生可能エネルギー政策のあり方にも関係する問題だと強く感じるようになりました。
反対署名は15,643筆へ
署名活動も広がりました。
2020年4月8日時点で、私たちが集計した反対署名は15,643筆となりました。
舞鶴市内だけでなく、全国からも多くの賛同が寄せられました。
FoE Japanやウータン・森と生活を考える会などの記録では、活動途中の数字として約11,000筆と紹介されている資料もあります。
これは集計時期の違いによるもので、このページでは私たちが後に公表した15,643筆を記録として掲載しています。
FoE Japan、ウータン・森と生活を考える会などとの連携
活動を進める中で、FoE Japan、ウータン・森と生活を考える会をはじめ、多くの環境NGOや専門家とのつながりが生まれました。
地域住民だけでは調べきれない、
パーム油生産と熱帯林問題、気候変動、生物多様性、持続可能性認証、FIT制度、企業の投融資などについて、専門的な情報提供を受けることができました。
私たちは舞鶴の地域情報を提供し、環境NGOは国内外の環境問題や制度、金融の問題から事業を検証する。
こうした連携によって、舞鶴の問題は全国、さらに海外の環境団体にも知られるようになりました。
2020年には、国内外の環境団体が連携し、日立造船の株主や金融機関などへの働きかけも行われました。
地域住民だけでは難しい企業や金融機関へのアプローチが可能になったことは、活動を進めるうえで大きな力となりました。
FoE Japan「住民がパーム油発電を撃退!(京都府舞鶴市)」
ウータン・森と生活を考える会「日本最大のパーム油燃焼発電所建設計画が中止」
2020年4月 AMPが舞鶴事業から撤退
大きな転機となったのが2020年4月でした。
2020年4月22日、投資会社AMPから私たちのもとへ、舞鶴バイオディーゼル発電所開発事業から撤退するという通知が届きました。
さらにAMPは、舞鶴の事業から撤退するだけではなく、今後AMPグループとしてパーム油を燃料とする発電事業を検討しない方針も示しました。
私たちにとって大きな前進でした。
しかし、この時点では活動を終わらせませんでした。
AMPが撤退しても、日立造船が別の出資者を探し、計画を継続する可能性が残っていたからです。
「本当に舞鶴の計画は終わるのか」
それを確認するまで活動を続ける必要があると考えました。
2020年6月 日立造船の株主総会へ
AMPの撤退後も、私たちは日立造船の動向を確認し続けました。
そして2020年6月23日、大阪で開催された日立造船の定時株主総会へ、舞鶴の地元住民が株主として参加しました。
目的は明確でした。
日立造船は、本当に舞鶴のパーム油発電事業から撤退するのか。
株主総会の場で、私たちは経営陣に対してパーム油発電事業について繰り返し質問し、曖昧なまま終わらせず、今後の方針を明確にするよう求めました。
その結果、日立造船環境事業本部長の白木常務取締役から、
「パーム油発電は今後しません」
という趣旨の回答を得ることができました。
FoE Japanやウータン・森と生活を考える会の記録にも、舞鶴市民側から質問が行われ、日立造船側が舞鶴プロジェクトから撤退する方針を回答した経過が残されています。
地域で反対の声を上げるだけではなく、企業の株主総会まで出向き、経営陣へ直接質問し、事業方針を確認する。
これは舞鶴での活動を象徴する出来事の一つでした。
舞鶴の発電所計画は撤退へ
AMPの撤退に続き、日立造船も事業継続を行わない方針が明確になりました。
その後、舞鶴グリーン・イニシアティブス合同会社は解散手続きへ進み、舞鶴で計画されていたパーム油火力発電所が建設される可能性はなくなりました。
舞鶴市側からも発電所建設中止について説明が行われ、計画撤退が明確になっていきました。
私たちが活動を始めたときには、ここまで早く計画が撤退するとは想像していませんでした。
2020年7月 勝利宣言
2020年7月6日、「舞鶴西地区の環境を考える会」は、
「舞鶴のパーム油火力発電所計画は消滅した」
として勝利宣言を発表しました。
活動開始から約9カ月でした。
当初は数年単位の活動になることも覚悟していました。
しかし、地域住民による調査や署名活動、福知山の住民との連携、国への陳情、FoE Japanやウータン・森と生活を考える会など環境NGOとの連携、投資家・金融機関への働きかけ、そして日立造船株主総会での直接質問など、多くの活動がつながったことで計画撤退という結果に至りました。
なぜ舞鶴の計画は止まったのか
私たちは、この計画が止まった理由を**「住民運動だけの力だった」**とは考えていません。
AMP側には事業上・資金調達上の事情もありました。
一方で、地域住民の反対や国内外からの環境面での批判が、事業を取り巻く環境へ大きな影響を与えていたことも、当時の資料から確認できます。
舞鶴の計画撤退には、
住民による調査と反対活動、15,643筆の署名、情報公開請求、福知山で実際に起きていた問題の調査、経済産業省・環境省への陳情、環境NGOとの連携、国内外の環境団体による働きかけ、投資家・金融機関への働きかけ、AMPの撤退、日立造船株主総会での直接質問など、さまざまな要因が重なりました。
私たち自身が活動の当事者であるからこそ、すべてを「自分たちの成果」として語るのではなく、どのような要因が重なって計画撤退に至ったのかを、残された資料からできる限り正確に伝えることが大切だと考えています。
舞鶴の活動から学んだこと
舞鶴での活動を通じて、私たちは多くのことを学びました。
大規模な事業計画であっても、地域住民が何もできないわけではありません。
まず資料を集める。
情報公開請求を行う。
事業者が出した資料を読む。
他地域で何が起きているのかを調べる。
専門家や環境団体に聞く。
分かったことを住民同士で共有する。
行政や事業者へ具体的に質問する。
必要であれば国へ行く。
投資家や金融機関へも働きかける。
企業の株主総会で直接質問する。
一つ一つは小さな行動でも、それらを積み重ねることで状況を動かせる可能性があります。
私たちが舞鶴で経験したことは、まさにその実例でした。
舞鶴での経験を全国の支援へ
舞鶴の発電所計画が撤退したことで、「舞鶴西地区の環境を考える会」は当初の目的を達成し、活動を終えました。
しかし、全国ではその後もバイオマス発電をめぐる問題が続きました。
舞鶴で得た経験、情報公開の方法、事業者資料の読み方、環境NGOとのネットワークなどは、その後の福知山、石巻、田川、美作など各地域の問題を調査・支援する活動へとつながっていきました。
私たちは、舞鶴での出来事を単なる「成功談」として残したいわけではありません。
次に同じような計画に直面する地域の方が、何を調べ、何を確認し、どのように行動すればよいのかを考えるための資料として残したい。
それが、このサイトを現在も残している大きな理由の一つです。
舞鶴パーム油火力発電問題 主な資料
当サイトの記録
外部参考資料
FoE Japan「住民がパーム油発電を撃退!(京都府舞鶴市)」
ウータン・森と生活を考える会「日本最大のパーム油燃焼発電所建設計画が中止」
過去の記事について
このサイトには、私たちが舞鶴のパーム油火力発電所計画に向き合っていた当時の記事を多数残しています。
当時は、発電所建設計画を止めたいという強い思いを持ちながら、事業者や行政に対して厳しい意見を発信することもありました。
そのため、過去の記事には現在のまとめ記事よりも強い表現を使っているものがあります。
しかし、それらも含めて、当時私たちが何を知り、何を疑問に感じ、どのように行動したのかを伝える活動記録だと考えています。
そのため、過去の記事は原則として当時の状態で残しています。
一方、この固定ページでは、活動から時間が経過した現在だからこそ確認できるその後の経過も含め、私たちが保存してきた記事や資料を中心に、FoE Japan、ウータン・森と生活を考える会などの記録も照合しながら、計画の始まりから撤退までを改めて整理しました。
私たちは、この問題の当事者です。
だからこそ、当時の思いや行動を隠すのではなく、その記録を残すと同時に、確認できる資料や事実をできる限り示すことを大切にしています。
バイオマス発電でお困りの方へ
近隣でバイオマス発電所の計画が持ち上がり、
「何から調べればよいのか分からない」
「事業者の資料を見ても内容がよく分からない」
「住民説明会で何を確認すればいいのか分からない」
という方もいらっしゃると思います。
私たちが舞鶴で経験したことや、その後全国各地のバイオマス発電問題を調べてきた資料をもとに、情報整理や資料確認などのお手伝いをしています。
舞鶴での経験が、現在同じような問題に向き合っている地域の方々に少しでも役立てばと考えています。