最終更新日:2026年8月16日
パーム油からポンガミア油、そして再びパーム油へ――現在も着工の目処立たず
宮城県石巻市須江地区では、合同会社G-Bio石巻須江による大規模な液体バイオマス発電所の建設が計画されています。
発電出力は102,750kW(約102.75MW)。
石巻市議会の意見書でも、当時「国内最大規模」の液体バイオマス火力発電計画として記載されています。
しかし、この計画は2017年にFIT認定を受けてから長い年月が経過しているにもかかわらず、現在も発電所本体の着工を確認できません。
さらに、事業の根幹となる燃料について、
パーム油
↓
ポンガミア油
↓
再びパーム油を前提
と説明が変わってきました。
FoE Japanも、G-Bioの燃料をめぐる説明が二転三転してきた経緯を記録しています。2017年にはパーム油でFIT認定を取得し、その後は住民にポンガミア油を使用しパーム油は使わないと説明。2023年には経済産業省の改善命令を受け、再びパーム油を前提として環境影響評価を修正しました。
G-Bio石巻須江発電事業
→ 現在も着工の目処立たず
これが、2026年現在の状況です。
102,750kWの大規模液体バイオマス発電計画
石巻市須江字瓦山地内で計画されている発電所は、液体バイオマスを燃料とする大規模な火力発電所です。
宮城県の環境影響評価資料でも、事業者を合同会社G-Bio石巻須江、事業規模を102,750kWとして掲載しています。
石巻市議会の2021年の意見書では、当時の燃料計画について、モザンビークでポンガミアを植林・栽培・精油化し、日本へ輸送して使用すると説明されています。
発電所予定地周辺では、地域住民から、
- 低振動
- 騒音
- 悪臭
- 大気汚染
- 道路交通
- 健康への影響
などについて懸念が示されてきました。
私たちが石巻の問題に関わった理由
私たちは、舞鶴・福知山のパーム油発電問題に当事者として関わってきました。
舞鶴では、約66MWのパーム油発電所計画が建設前に撤退。
福知山では、実際に稼働したパーム油発電所で騒音や悪臭などの問題が発生し、最終的には発電設備そのものが廃炉となりました。
そうした経験の後に知ったのが、石巻須江の計画です。
舞鶴を大きく上回る102.75MWという規模。
液体バイオマスを大型設備で燃焼する計画。
住宅地に近い立地。
そしてパーム油をめぐる問題。
私たちは、舞鶴・福知山で得た経験から、この計画についても調査し、情報を発信する必要があると考えました。
2022年10月に石巻市で行われたG-Bioの事業者説明会についても、音声や資料を入手して当サイトで公開しています。
石巻市議会も国へ意見書
この計画に強い懸念を示したのは、住民や環境NGOだけではありません。
2021年3月17日、石巻市議会は、
「石巻須江火力発電所建設計画に関する意見書」
を可決し、
経済産業大臣
資源エネルギー庁長官
へ提出しました。意見書は原案可決され、議員別賛否一覧でも採決参加議員が賛成していることが確認できます。
意見書では、地元住民から低振動、騒音、悪臭、大気汚染、道路交通など住環境や健康への影響を懸念する声が出ていることを明記しています。
さらに国に対して、
住宅地への建設を避けること。
幅広い地域住民へ事業計画を周知し、理解を得ること。
事業計画策定ガイドラインの遵守を徹底すること。
国内で十分な使用実績のない新規輸入燃料については、FIT認定を慎重に判断すること。
などを強く求めています。
石巻市議会は形式上「建設反対決議」という名称の決議を出したわけではありません。
しかし、市議会として国へこれだけ強い条件整備と慎重な判断を求めたことは、事業計画に対する極めて強い懸念の表明だと私たちは受け止めています。
地元住民から9,751筆の反対署名
地域住民の反対も非常に強いものです。
ウータン・森と生活を考える会の記録では、地元住民団体が9,751筆の反対署名を提出しています。
さらに2023年9月10日の住民説明会では、ウータン・森と生活を考える会がオンラインで集めた9,280筆の署名を事業者社長へ直接手渡しています。
住民説明会では、学校に近いことによる子どもの安全、騒音・悪臭、大型車両の通行などへの懸念も示されています。
つまり、この事業は地域住民の理解を十分得たうえで順調に進んでいる計画とは言い難い状況が続いています。
最大の疑問――結局、何を燃やすのか
石巻の計画で最も理解しにくいのが、燃料の問題です。
発電所にとって、
「何を燃やすのか」
は事業の根幹です。
ところが、この計画では燃料の説明が長期間にわたって変わってきました。
2017年 パーム油でFIT認定
G-Bio石巻須江発電事業は2017年2月、パーム油を燃料としてFIT認定を取得しました。
事業者の現在の公式サイトでも、FIT認定日は2017年2月22日とされています。
つまり、この事業の制度上の出発点はパーム油発電でした。
その後「ポンガミア油を使用する」へ
その後、事業者は住民に対して、
パーム油は使用せず、モザンビークで生産するポンガミア油を使用する
と説明するようになりました。FoE Japanもこの経過を確認しています。
石巻市議会の2021年の意見書でも、燃料はポンガミア油で、モザンビークで植林・栽培・精油化したものを輸入する計画として記載されています。
しかし、大きな問題がありました。
FIT認定上の燃料は、あくまでパーム油でした。
FoE Japanは、この認定内容と住民への説明の食い違いなどを問題視し、FIT認定の取り消しを求めてきました。
ポンガミア油にも環境・社会面の問題
「パーム油を使わなければ問題は解決する」という単純な話でもありません。
ポンガミア油を大量生産する場合、日本の発電燃料を確保するため、海外で大規模な土地利用が必要になります。
FoE Japanは、ポンガミアを燃料とする計画について、FIT制度との整合性だけでなく、海外での土地利用や地域社会への影響なども問題視しています。
燃料の名前をパーム油からポンガミア油へ変えれば、それだけで持続可能な発電事業になるわけではありません。
2023年 経済産業省の改善命令
2023年2月28日、経済産業省はG-Bioに改善命令を出しました。
FIT認定時にはパーム油を燃料としていたにもかかわらず、環境影響評価や住民説明ではポンガミア油を使用するとしていたことから、
認定燃料であるパーム油の安定調達体制の構築。
認定燃料を前提とした環境影響評価。
住民説明会の実施。
ホームページなどの記載内容の修正。
などが求められました。
その結果、
2017年
パーム油でFIT認定
↓
その後
ポンガミア油を使用すると住民へ説明
↓
2023年
経済産業省の改善命令
↓
再びパーム油を前提とした環境影響評価へ
という経過をたどりました。
発電事業の根幹である燃料について、長期間にわたって説明が変わってきたことは、この事業を考えるうえで非常に重要な問題です。
事業者側の説明も確認する
このページでは、反対する側の情報だけで判断するつもりはありません。
G-Bio石巻須江は現在も公式サイトで事業継続の意思を示しています。
現在の公表内容では、
発電出力:102,750kW
FIT認定日:2017年2月22日
運転開始時期:2028年予定
とされています。
また、FIT認証を受けた植物油燃料を使用し、第三者認証やトレーサビリティを確保すると説明しています。
私たちは、
住民の声。
行政・議会資料。
環境NGOの調査。
報道。
そして事業者自身の説明。
を比較しながら判断することが重要だと考えています。
着工・運転開始予定は何度も先送り
石巻計画でもう一つ注目すべき点が、事業スケジュールです。
2022年の住民説明では2023年3月着工、2026年5月運転開始という予定が示され、その後の計画では2024年1月頃着工、2027年4月頃運転開始へ変更されました。現在の事業者公式サイトでは、さらに2028年運転開始予定となっています。
さらに事業者は、2025年4月に宮城県へ林地開発許可申請書を提出したことを公表しています。許可には約1年程度かかるとの見通しを石巻市へ説明したともしています。
つまり、計画そのものは現在も継続しています。
しかし、FIT認定から長い年月が経過しているにもかかわらず、発電所本体の着工は確認できません。
なぜ大型バイオマス発電計画は「止まっているのに消えない」のか
石巻のような大規模なバイオマス発電計画を理解するには、発電設備や燃料だけでなく、資金調達の仕組みも見る必要があります。
100MW級の発電所では、非常に大きな建設資金が必要になります。
通常、この規模の資金を一事業者がすべて自己資金だけで用意するわけではありません。
大規模な再生可能エネルギー事業では、
銀行融資・出資・投資など複数の資金を組み合わせて事業を成立させる
という方法が取られます。
つまり、発電事業には事業会社だけでなく、
金融機関。
出資者。
投資家。
設備会社。
建設会社。
燃料供給事業者。
など、多くの関係者が関わる可能性があります。
FIT制度が資金調達を支えてきた
FIT制度では、認定された発電事業について一定期間の売電収入を見通しやすくなります。
発電所が完成し、燃料を安定的に調達し、計画どおり発電できれば、
将来どの程度の売電収入が見込めるのか
という事業計画を立てやすくなります。
その収益計画をもとに、銀行融資・出資・投資などを組み合わせて大型設備への資金を調達することが可能になります。
このため、大型のFITバイオマス事業を調べる場合には、発電設備だけでなく、誰がどのように資金を支える予定なのかを見ることも重要です。
一つの条件が崩れると事業全体へ影響する
ところが、計画途中で重要な条件が崩れると状況は複雑になります。
例えば、
燃料を予定どおり確保できない。
予定していた燃料がFIT制度上使えない。
環境影響評価をやり直す必要がある。
建設費が上昇する。
住民の強い反対が続く。
許認可が進まない。
資金調達の条件を満たせない。
こうした問題が起きれば、事業の採算性や実現可能性そのものを再検討しなければなりません。
石巻の場合、まさに燃料という重要な条件について、
パーム油 → ポンガミア油 → 再びパーム油
と計画が揺れてきました。
燃料が変われば、燃料価格、調達契約、輸送費、環境負荷、FIT制度との整合性、発電コストなどにも影響します。
当然、金融機関や投資家にとっても重要な問題になります。
計画を中止すれば損失が表面化する可能性
一方、事業が長期間進められている場合、土地取得、調査、設計、環境影響評価、許認可手続きなどに、すでに相当な費用が投入されている可能性があります。
そこで正式に事業中止を決定すれば、それまでに投入した資金や契約、権利などについて損失処理が必要になる場合があります。
さらに複数の企業や金融関係者が関わっていれば、その影響が事業会社だけで終わらない可能性もあります。
その結果、
事業は前へ進まない。
しかし計画も正式には撤回されない。
という状態が長期間続くことがあります。
一般的な言葉でいえば、いわゆる**「塩漬け」に近い状態**です。
問題を解決して事業を前へ進めることもできない。
しかし、正式に中止して損失を確定することも避けたい。
その結果、着工予定や運転開始予定が先送りされることがあります。
ただし、これは大型FIT案件一般の資金構造を説明したものであり、G-Bio石巻須江について、具体的にどの金融機関がどの程度の資金を投入しているかを示すものではありません。
公開資料で確認できない金融関係については断定しません。
なぜ環境NGOは「ダイベストメント」を行うのか
こうした大型事業に対して、ウータン・森と生活を考える会などの環境NGOが重視してきた活動の一つが、ダイベストメントです。
ダイベストメントとは、簡単に言えば、
環境面・社会面などで問題があると考える事業や企業から、投融資を引き揚げるよう金融機関や投資家へ求める活動
です。
大規模発電所は、発電会社だけでは建設できません。
銀行融資・出資・投資などの資金が集まることで、大規模な事業が成立します。
逆にいえば、資金を提供する側が、
「この事業は環境面・社会面・事業面でリスクが高い」
と判断すれば、事業継続にも影響する可能性があります。
舞鶴・福知山でも金融機関へ働きかけた
これは理論上の話だけではありません。
私たちが関わった舞鶴・福知山のパーム油発電問題でも、ウータン・森と生活を考える会などは、事業者だけでなく金融機関にも働きかけました。
福知山では2020年8月、ウータン・森と生活を考える会が7カ国18団体の賛同を得て、三恵エナジーなどへの融資関係があるとみられた金融機関7社に対して、ESGエンゲージメントの強化と投資撤退(ダイベストメント)を求める要請書を送付しています。
ウータン・森と生活を考える会「融資銀行へのダイベストメント要請」
つまり、
事業者だけに中止を求めるのではなく、その事業を資金面から支える側にも責任ある判断を求める。
これがダイベストメントの考え方です。
石巻でも投資家への働きかけ
ウータン・森と生活を考える会は、石巻須江の事業についても、住民署名だけでなく、機関投資家へESGエンゲージメントを求める働きかけを行っています。
ウータン・森と生活を考える会「石巻須江バイオマス発電への反対署名・機関投資家への働きかけ」
大型バイオマス発電問題を考える際には、
誰が事業を計画しているのか
だけではなく、
誰が資金を供給し、誰が事業リスクを負っているのか
を見る必要があります。
バイオマス発電を見るときは「資金の流れ」も見る
大型バイオマス発電事業では、
誰が出資しているのか。
誰が融資するのか。
誰が設備を提供するのか。
誰が建設を請け負うのか。
誰が燃料を供給するのか。
といった関係を確認することで、事業全体の構造が見えてきます。
舞鶴や福知山で私たちや環境NGOが金融機関への働きかけを行ったのも、このためです。
資金の流れは、大型発電事業を成立させる重要な要素です。
石巻の計画を「破綻」と断定しない理由
ここまで長期間着工できず、燃料や予定時期も何度も変わっていると、
「もう事業として破綻しているのではないか」
という疑問を持つのは自然です。
私たち自身も、事業の実現可能性について大きな疑問を持っています。
しかし、現在も事業者は公式サイトで事業継続を表明し、2028年運転開始予定としています。また、2025年には林地開発許可申請を行ったと公表しています。
したがって、このサイトでは現時点で、
「破綻」
「計画消滅」
とは断定しません。
確認できる事実として、
長期間、発電所本体の着工を確認できない。
燃料計画の説明が何度も変更された。
経済産業省から改善命令を受けた。
住民の強い反対が続いている。
石巻市議会が国へ意見書を提出した。
運転開始予定が繰り返し先送りされている。
という経過を示したうえで、
現在も着工の目処立たず
と整理します。
遠方のため、現在は複数の情報源から経過を確認
石巻は舞鶴から遠方であることもあり、私たちと現地との直接的なやり取りは途中から少なくなりました。
しかし、石巻の問題は現在も続いています。
そのため現在は、
石巻の地域住民。
石巻市・石巻市議会。
宮城県。
FoE Japan。
ウータン・森と生活を考える会。
河北新報などの地域報道。
そして事業者G-Bio石巻須江。
それぞれの情報を確認しながら経過を追っています。
特定の立場だけの情報を見るのではなく、
住民・行政・NGO・報道・事業者、それぞれの資料を比較して事実関係を整理する。
これは、舞鶴での活動以来、私たちが大切にしている姿勢です。
石巻問題から私たちが学ぶこと
石巻の事例から見えてくるのは、
「FIT認定を受けた=発電所が必ず建設される」
わけではないということです。
発電所を実際に建設するためには、
燃料。
環境影響評価。
地域住民との関係。
各種許認可。
建設費。
資金調達。
建設会社。
設備。
交通対策。
など、多くの条件をそろえる必要があります。
一つでも重大な条件が整わなければ、事業が長期間停滞する可能性があります。
一方で、大規模な資金や多くの関係者が絡むため、
止まっていても簡単には消えない。
という状態も起こり得ます。
石巻須江の計画は、大規模なFITバイオマス発電事業の構造を考えるうえで、非常に重要な事例だと私たちは考えています。
石巻 G-Bio須江発電事業 主な資料
当サイトの記録
行政・議会資料
事業者
環境NGO
FoE Japan「何が問題? G-Bio石巻須江バイオマス発電所」
FoE Japan「G-Bio石巻須江バイオマス発電 認定取り消しを求める」
ウータン・森と生活を考える会「石巻須江バイオマス発電への反対署名・機関投資家への働きかけ」
ウータン・森と生活を考える会「2023年住民説明会・9,280筆の署名提出」
ウータン・森と生活を考える会「福知山・金融機関へのダイベストメント要請」
このページについて
私たちは舞鶴・福知山のパーム油発電問題に当事者として関わった後、石巻須江の計画についても調査・情報発信を行ってきました。
石巻は遠方であるため、舞鶴や福知山ほど長期間にわたって直接活動を行ってきたわけではありません。
そのため、このページでは当サイトの活動記録だけではなく、
地元住民、石巻市、石巻市議会、宮城県、FoE Japan、ウータン・森と生活を考える会、地域報道、そして事業者自身の公表資料
を参考に、現在までの経過を整理しています。
この計画はまだ終わっていません。
事業者は現在も事業継続の意思を示しています。
一方で、FIT認定から長期間が経過しても、発電所本体の着工は確認できません。
だからこそ、この計画が今後どのようになるのかを記録し続ける価値があると考えています。
現在の状況
G-Bio石巻須江発電事業
計画:継続中
事業者公表の運転開始時期:2028年予定
発電所本体:着工を確認できず
→ 現在も着工の目処立たず
計画中止ではありません。
しかし、2017年のFIT認定から長期間にわたって、本体着工に至っていないことも事実です。事業者は2025年に林地開発許可申請を行ったと公表しているため、今後の許認可や着工の動きを引き続き確認します。
バイオマス発電でお困りの方へ
近隣でバイオマス発電所が計画され、
「FIT認定済みだから、もう何もできない」
と思っている方もいるかもしれません。
しかし、FIT認定と実際の着工・稼働は同じではありません。
燃料、環境影響、許認可、地域住民との関係、資金調達など、確認すべき項目は数多くあります。
事業計画や住民説明会資料などについて疑問がある場合は、ご相談ください。