最終更新日:2026年8月16日

地域循環型を掲げて建設された発電所――しかし現在も膠着状態

福岡県田川市糒地区では、田川バイオマスエネルギー株式会社による木質バイオマス発電所が建設されました。

発電出力は1,999kWです。

事業者は、地域の未利用木材を燃料として利用し、発電時に発生する排熱を農業へ活用することで、地域資源の循環、農業振興、雇用創出などにつなげる計画を掲げています。

発電所のそばに農業施設を設け、排熱をビニールハウスの加温に利用し、ハーブ類などを栽培する構想も公表しています。

理念だけを見れば、非常に環境配慮型の事業に見えます。

しかし、計画が進む過程では、地域住民への説明と合意形成をめぐって大きな対立が生じました。

住民側は、十分な住民説明会が行われないまま建設が進んだと訴え、騒音、排煙、交通、安全性、燃料調達などについて疑問を示しています。

RKBも2024年7月、住民側が「住民説明会が開かれないまま着工した」と訴え、事業者に説明を求め続けている状況を詳しく報じています。

現在、発電設備そのものは建設されています。

一方で、営業運転開始は確認できず、FoE Japanが2025年に行った現地視察でも、発電所は「建設中」として紹介されています。住民による反対活動も現在まで続いています。

田川バイオマス発電所

施設:建設済み

営業運転:開始を確認できず

住民反対運動:継続中

→ 現在も膠着状態


田川の計画は、なぜ一見「環境に良い事業」に見えるのか

田川の計画は、舞鶴や福知山のパーム油発電、石巻の大規模液体バイオマスとは性格が違います。

事業者が掲げている大きな特徴は、

国産未利用材を使うこと

これまで利用しにくかった木材も燃料として活用すること

発電時の排熱を農業へ利用すること

地域雇用につなげること

です。

輸入パーム油や輸入木質ペレットに依存するのではなく、地域周辺で集めた木材を利用し、さらに発電時に捨てられる熱まで農業へ活用する。

計画だけを見れば、

森林資源の有効活用
+ 再生可能エネルギー
+ 農業振興
+ 地域雇用

を組み合わせた地域循環型事業として説明できます。

事業者も、排熱利用によるCO₂削減や農業法人による地域農業への活用を掲げています。

私たちも、こうした理念そのものを否定するものではありません。

本当に地域資源を有効活用し、地域経済にも還元できるのであれば、検討する価値のある仕組みだと考えます。

しかし重要なのは、

その構想が実際に成立するのか

ということです。


「未利用材を使う」だけでは燃料問題は解決しない

田川では、地域の国産未利用材を燃料として利用するとされています。

一見すると、

「山に使われていない木があるのだから、それを燃やせばよい」

という話に見えるかもしれません。

しかし、

利用されていない木材が存在すること

と、

発電所を長期間運転できる量を、安定的かつ経済的に確保できること

は別の問題です。

木材を発電燃料として利用するには、

山から搬出する。

集積する。

破砕・チップ化する。

水分を管理する。

保管する。

発電所まで運搬する。

という工程が必要になります。

特に根元部や枝葉、林地残材など、これまで利用しにくかった資源ほど、回収や搬出、加工に手間と費用がかかる可能性があります。

ウータン・森と生活を考える会も、同規模の木質バイオマス発電では年間数万トン規模の原木が必要になる例を示し、木材調達による環境負荷や林業関係への影響、コスト上昇を問題視しています。

つまり、

「未利用材だから燃料は確保できる」

とは限りません。


バイオマス発電所の増加で、燃料そのものが競合する

FIT制度の導入後、全国各地で木質バイオマス発電所が増えました。

発電所が増えれば、燃料となる木材への需要も増えます。

木質チップや原木は、バイオマス発電だけのために存在する資源ではありません。

製紙、木材加工、ボード原料など、他の用途とも競合します。

さらに、燃料不足や燃料コストの上昇によって、国内の木質バイオマス発電所が稼働停止に至った例も指摘されています。ウータンも、燃料不足による事業停止例を挙げながら、木質バイオマス発電の経済的持続性について問題提起しています。

田川について本当に確認するべきなのは、

「未利用材を使います」

という説明だけではありません。

年間どれだけの燃料が必要なのか。

どの地域から調達するのか。

その地域で毎年どれだけ供給できるのか。

他の発電所や木材産業との競合はないのか。

搬出・加工・輸送コストはいくらなのか。

長期間にわたり同じ条件で調達できるのか。

という具体的な燃料調達計画です。


コロナ禍後、事業を取り巻く経済環境も大きく変化

田川の事業を検証するうえで、計画当初と現在では経済環境が大きく変わっていることも見逃せません。

新型コロナウイルス禍以降、世界的な物流混乱、エネルギー価格、建設資材、人件費、輸送費など、多くのコストが上昇しました。

木質バイオマス発電は、太陽光発電などとは違い、発電を続ける限り燃料を継続的に購入・輸送し続ける必要があります。

木材を集める。

加工する。

保管する。

運搬する。

設備を維持する。

こうした費用が常に発生します。

そのため、

燃料価格
+ 輸送費
+ 人件費
+ 設備維持費

が上昇すれば、事業収支への影響も続きます。


FIT価格は一定でも、コストまで固定されるわけではない

FIT制度は、一定期間の売電収入を見通しやすくする仕組みです。

これは事業計画を立てるうえで大きなメリットです。

しかし、

燃料費が上昇したから売電価格も自由に上げられる

という制度ではありません。

つまり、

収入は一定の条件で見通しやすい

一方で、

燃料費・人件費・輸送費・維持管理費などは変動する

という構造になります。

ここに木質バイオマス発電の大きな事業リスクがあります。

そのため私たちは、田川について、

「発電所を完成させられるか」だけではなく、「仮に稼働したとして、長期間安定して事業を続けられるのか」

を見る必要があると考えています。


「排熱を農業へ利用する」構想

田川の計画でもう一つ特徴的なのが、発電時の排熱利用です。

事業者は、発電所のそばに農業施設を設け、発電時に発生する熱をビニールハウスの加温などへ利用する構想を掲げています。

事業者側は、排熱を農業へ活用することで、通常のハウス加温に使用する燃料を減らし、CO₂削減や地域農業、雇用創出につなげる構想を説明しています。

理念としては非常に良い話です。

しかし、

「排熱が出る」こと

と、

「排熱を経済的に農業へ利用できる」こと

も同じではありません。


排熱は「無料のエネルギー」ではない

発電所から熱が出るからといって、その熱をそのまま農業ハウスへ利用できるわけではありません。

実際に利用するには、

熱交換設備。

配管。

ポンプ。

制御設備。

農業用ハウス。

設備の維持管理。

などが必要です。

当然、建設費と維持費が発生します。

そこで確認しなければならないのが、

誰がその費用を負担するのか

という問題です。

発電事業者が負担するのか。

農業法人が負担するのか。

農家が負担するのか。

行政の補助金を利用するのか。

別の企業が投資するのか。

さらに、発電所が故障、定期点検、燃料不足などで停止した場合、農業ハウスの熱源をどう確保するのかという問題もあります。

農作物は、発電所が止まったからといって暖房を停止するわけにはいきません。

バックアップ用のボイラーなどを用意するのであれば、その設備費や燃料費も必要になります。

したがって、

「排熱を農業へ利用します」

という説明だけで、地域貢献策を評価することはできません。


排熱農業は現在も実現性を確認する必要がある

FoE Japanは2025年の現地視察で、田川の発電設備が熱利用を考慮した構造になっていることを確認しています。現地では、熱利用を想定した複雑な配管設備なども確認されています。

一方で、計画されている農業利用について、

どの事業者が運営するのか。

設備費はいくらなのか。

どの程度の農地・ハウスを整備するのか。

農産物販売で採算が取れるのか。

発電停止時のバックアップ熱源をどうするのか。

といった点まで確認しなければ、地域農業として持続可能かどうかは判断できません。

排熱利用という構想があることと、それが実際に地域事業として成立することは別問題です。


良い理念でも、住民合意を欠いたまま進めてよいのか

田川問題の本質は、ここにあると私たちは考えています。

国産未利用材を使う。

地域の木材を活用する。

排熱を農業へ利用する。

地域雇用を生み出す。

これらの理念そのものは、決して悪いものではありません。

しかし、

良い理念を掲げていれば、地域住民への説明や合意形成を軽視してよいわけではありません。

RKBの2024年の取材では、住民側は住民説明会が開かれないまま着工したと訴えています。

また、国へ提出された事業者側資料では、2019年に地域住民への説明を行い理解を得た旨が記載されていた一方、住民側はその認識に強く異議を唱えています。RKBは、当時の集まりが飲食店での「顔合わせ」として案内されたものだったとの住民証言も報じています。

住民団体はその後、田川市に対して、再生可能エネルギー事業者へ住民説明を求める制度づくりを要望しました。

田川市議会の2024年の記録でも、市が事業者側と住民説明会の開催について協議し、市長が南国殖産へ直接出向いて対応を求めたこと、さらに住民から提出された条例案を受け、条例制定へ向けた準備を進めていたことが確認できます。


地域住民の強い反対

発電所周辺では、長期間にわたり住民による反対運動が続いています。

FoE Japanの2025年の視察でも、「田川バイオマス発電所を考える会」を中心に、月2回のスタンディング、署名活動、住民説明会開催を求める要望活動などが継続していることが紹介されています。

住民が懸念しているのは、

騒音。

排煙。

健康への影響。

大型車両の通行。

通学路の安全。

洪水時の安全性。

農業環境への影響。

などです。

事業者が環境配慮や地域循環を掲げていても、

実際にそこで暮らす住民との信頼関係が築けていない

という問題は残っています。


市議会・行政も住民説明を求める

田川の問題は、単なる事業者と住民の対立にとどまりません。

田川市議会でも繰り返し取り上げられ、市側も事業者に対して住民説明会の開催を求めています。

2024年の市議会記録では、市長が事業者の親会社である南国殖産へ直接出向き、住民説明会について市の考えを伝えたことが記録されています。一方、その時点でも明確な開催スケジュールには至っていませんでした。

住民側から再生可能エネルギー発電設備に関する条例制定を求める動きも起こりました。

これは、田川の問題が一つの発電所だけにとどまらず、

今後、地域で再生可能エネルギー事業をどのような手続きで進めるべきなのか

という制度上の問題へ広がったことを意味します。


なぜ環境NGOは金融機関にも働きかけたのか

田川でも、舞鶴・福知山と同じように、金融面への働きかけが行われています。

2023年8月、ウータン・森と生活を考える会などは、田川バイオマス発電所をめぐり、南国殖産グループに関係する金融機関や株主へ、ESGエンゲージメントの強化と、改善されない場合の投融資見直しを求めました。

ウータン・森と生活を考える会「田川市の木質バイオマス発電事業から投資撤退を求める要請」

大規模な発電事業は、事業会社だけで成立するわけではありません。

銀行融資、出資、投資など、複数の資金によって事業が支えられます。

だからこそ環境NGOは、

事業者だけではなく、その事業を資金面から支える側にも責任ある判断を求める

という活動を行っています。


仮に稼働しても、安定運営できるかは別問題

田川では、施設そのものは建設されています。

そのため、

「発電所は完成したのだから、あとは動かすだけ」

と思われるかもしれません。

しかしバイオマス発電では、

施設完成

と、

長期的な事業成立

は別問題です。

仮に稼働しても、

必要量の燃料を集められるのか。

燃料価格は採算範囲に収まるのか。

運搬費を負担できるのか。

人件費・設備維持費を賄えるのか。

排熱農業など地域貢献策の費用まで負担できるのか。

という問題が続きます。

ウータンも、国内の木質バイオマス発電で燃料不足による稼働停止が起きていることを指摘し、田川事業について経済的な持続性の面でもリスクがあると問題提起しています。

したがって田川について重要なのは、

「いつ動くのか」だけではなく、「動いた後に続けられるのか」

です。


田川の事業理念と現在の現実

田川の計画を最も好意的に整理すると、

地域の未利用材を活用する

発電する

排熱を農業へ利用する

農業振興と雇用を生む

地域循環型のエネルギー事業にする

という構想です。

しかし現在は、

燃料の長期安定調達

燃料・物流・人件費などのコストリスク

排熱農業の実現性と費用負担

地域住民との対立

営業運転開始を確認できない状態

という課題があります。

つまり、

理念が良いことと、事業が成立することは同じではありません。


私たちが田川の問題から学ぶこと

私たちは、田川の木質バイオマス発電を、

「バイオマス発電だから反対」

という視点だけで見てはいません。

国産未利用材を有効活用すること。

排熱を地域へ還元すること。

地域雇用につなげること。

こうした考え方には理解できる部分があります。

しかし、それだけでは事業の妥当性を判断できません。

本当に燃料を確保できるのか。

現在のコストで採算が成立するのか。

排熱農業は実現するのか。

その費用は誰が負担するのか。

地域住民は十分な説明を受けたのか。

そして地域の理解を得て長期間運営できるのか。

そこまで確認して初めて、持続可能な事業なのかを判断できます。

田川の事例から見えてくる最大の教訓は、

「環境に良い理念を掲げた事業であっても、住民合意と実現可能性を欠けば持続可能な事業にはならない」

ということだと私たちは考えています。


田川バイオマス発電問題 主な資料

事業者

田川バイオマスエネルギー 公式サイト

田川バイオマスエネルギー「排熱の農業利用」

地元住民

田川バイオマス発電所を考える会

環境NGO

FoE Japan「バイオマス発電所視察@福岡 ~視察で感じた地域住民の力強さ~」

ウータン・森と生活を考える会「田川市の木質バイオマス発電事業から投資撤退を求める要請」

ウータン・森と生活を考える会

報道・行政

RKB「『まさか発電所が建つとは』住民説明会ないまま着工」

田川市公式ホームページ


このページについて

私たちは、舞鶴・福知山・石巻など全国各地のバイオマス発電問題を調査する中で、地元、田川住民から相談を受けて情報を収集し、経過を確認してきました。

田川は、これまで取り組んできた地域とは少し性格が違います。

輸入パーム油を燃料とする計画ではありません。

地域の未利用木材を使い、発電時の排熱まで地域農業へ活用するという、一見すると非常に環境配慮型の事業です。

だからこそ私たちは、理念だけで賛否を決めるのではなく、

燃料調達

事業採算性

排熱利用

費用負担

住民説明

地域合意

という具体的な条件を確認することが重要だと考えています。

特定の立場だけの情報を見るのではなく、事業者、地域住民、行政、報道、環境NGOなどの情報を照合しながら、今後も経過を記録していきます。


現在の状況

田川バイオマス発電所

施設:建設済み

発電出力:1,999kW

営業運転:開始を確認できず

住民反対運動:継続中

→ 現在も膠着状態

施設は存在しています。

しかし、施設が完成したことと、事業が長期的に成立することは同じではありません。

今後、営業運転開始、燃料調達、排熱農業、地域との協議などに新たな動きがあれば、このページも更新していきます。


バイオマス発電でお困りの方へ

近隣でバイオマス発電所が計画され、

「環境に良い事業と言われているので反対しにくい」

「未利用材だから問題ないと言われた」

「地域貢献策が本当に実現するのか分からない」

という方もいらっしゃると思います。

再生可能エネルギー事業だからといって、すべての計画が自動的に地域にとって良い事業になるわけではありません。

燃料、採算性、環境影響、地域貢献策、住民説明などを一つずつ確認することが重要です。

バイオマス発電 お悩み相談