最終更新日:2026年8月16日

日本三大うどん「水沢うどん」の観光地に発電所計画――住民が株主総会まで動き、計画は頓挫

群馬県渋川市伊香保町水沢地区で、木質バイオマス発電所の建設が計画されました。

計画地は、

日本三大うどんの一つ「水沢うどん」

で知られる地域です。

水沢うどん街、水澤観音、そして近くには全国有数の温泉観光地である伊香保温泉があります。

ここに計画されたのが、

発電出力1,990kWの木質専焼バイオマス発電所

でした。

中部電力などが2024年10月に公表した計画では、所在地は群馬県渋川市伊香保町水沢字植木原83番4

主な燃料は、群馬県内の街路樹剪定枝などを利用した木質チップで、当初は2025年11月の運転開始を予定していました。

出資比率は、

中部電力 50%

エムエル・パワー 40%

プロスペックAZ 10%

とされていました。

一見すると、

これまで廃棄されていた剪定枝を有効利用する地域循環型の再生可能エネルギー事業

です。

しかし地元住民にとっては、

なぜ水沢うどんや伊香保観光を支えるこの場所に、24時間稼働する発電所を建設する必要があるのか

という大きな疑問がありました。

そして、この計画を知った現地の方が、わざわざ群馬県渋川市から舞鶴まで私たちを訪ねて相談に来てくださいました。

ここから、水沢地区の住民主体の活動が始まります。


計画されていた渋川バイオマス発電所

計画概要は次の通りです。

事業会社:渋川バイオマス発電合同会社

所在地:群馬県渋川市伊香保町水沢字植木原83番4

発電出力:1,990kW

想定年間発電量:約1,450万kWh

燃料:木質チップ(主に群馬県内の街路樹剪定枝など)

当初運転開始予定:2025年11月

出資:中部電力50%、エムエル・パワー40%、プロスペックAZ10%

中部電力側は、これまで廃棄・焼却処分されていた剪定枝を燃料として利用することで、廃棄物の再資源化や地域循環型社会に貢献すると説明していました。

中部電力「群馬県渋川市における木質専焼バイオマス発電所の開発について」

理念だけを見れば、悪い事業には見えません。

しかし、

「再生可能エネルギーだから良い」

「廃棄される木を燃料にするから良い」

というだけでは、立地の妥当性まで説明することはできません。


最大の問題は「なぜ水沢なのか」

水沢は単なる郊外の土地ではありません。

水沢うどん、水澤観音、伊香保温泉などと一体となった観光地域です。

特に水沢うどんは、地域の歴史や水と深く結び付いた地域ブランドです。

ウータン・森と生活を考える会と「水沢・伊香保町の未来を考える会」も、この地区について、歴史ある観光地としての価値に加えて、限られた水資源を重要な問題として挙げています。

住民側が懸念したのは、

騒音。

排気。

大型トラック。

交通安全。

火災や事故。

自然環境。

そして、

水資源への影響

です。


水沢うどんを支える「水」の問題

水沢という地域で特に重要なのが、水です。

地元住民団体などによる事業見直し要請では、水沢地区では時期によって渇水することがあり、水源の確保や分配に長年苦労してきたことが指摘されています。

水沢うどんをはじめ、地域の飲食業や観光産業にとって水は大切な地域資源です。

だからこそ住民側から見れば、

発電所ではどの程度の水を使うのか。

どこから取水するのか。

渇水時にはどうするのか。

地域産業や住民の水利用へ影響しないのか。

という疑問が生じます。

これは単なる、

「発電所が景観に合わない」

という話ではありません。

地域産業そのものを支えている資源へ影響しないのかを確認する必要がありました。


地元住民がわざわざ舞鶴まで相談に

この計画を知った現地の方から、私たちへ相談がありました。

そして、わざわざ群馬県渋川市から京都府舞鶴市まで足を運んでくださいました。

私たちは、舞鶴・福知山などで経験してきたバイオマス発電問題をもとに、

事業計画の調べ方。

住民活動の進め方。

事業者へ質問する方法。

情報の集め方。

環境NGOとの連携。

金融機関への働きかけ。

株主総会という方法。

などについて経験を共有しました。

ただし、これまでの事例と同じく、

私たちが渋川で反対運動を行ったわけではありません。

実際に動いたのは、水沢・伊香保の地域住民です。

私たちは、自分たちの経験を伝える支援役です。


反対運動の主役は、やはり地元住民

渋川でも重要だったのは、

地元住民自身が主体となったこと

です。

外部団体だけが反対しても、

「地域外の団体が反対しているだけ」

と受け止められる可能性があります。

しかし、

実際に水沢で生活する人。

水沢で商売をする人。

地域の水を利用する人。

観光を支える人。

そうした住民自身が、

「この場所への建設には納得できない」

と声を上げれば意味は大きく変わります。

渋川ではさらに、一般的な署名活動や要望活動だけではなく、企業経営へ直接働きかける方法へ進みました。


住民自身が中部電力の株主になる

私たちが舞鶴のパーム油発電問題で経験した方法の一つが、

株主総会

でした。

企業が発電事業へ関与しているのであれば、

外から抗議するだけではなく、

その会社の株式を購入し、株主として経営陣へ直接質問する

という方法があります。

渋川でも、現地住民が自ら中部電力の株式を購入しました。

つまり、

住民

であると同時に、

中部電力の株主

にもなったのです。

そして株主総会へ出席し、バイオマス発電事業について経営陣へ直接質問しました。

一般的な問い合わせであれば担当部署で処理される可能性があります。

しかし株主総会では、

会社の経営陣に対して、株主として事業リスクを問う

ことができます。

住民自身が、

「なぜ地域住民が反対する場所で、この事業を進めるのか」

という問題を企業経営の場へ持ち込みました。


なぜ株主総会が有効なのか

発電所問題というと、

自治体。

市議会。

事業者。

へ働きかけることを考える人が多いと思います。

もちろん、それらも重要です。

しかし大型事業には、

事業会社。

出資企業。

金融機関。

投資家。

設備会社。

燃料会社。

など、多くの企業が関係します。

事業会社だけを見ていると、全体像を見失うことがあります。

特に大企業が出資している場合、

環境問題。

地域住民との対立。

事業の遅延。

建設費上昇。

燃料調達。

企業イメージ。

ESG。

といった問題は、

その企業自身の事業リスク

になります。

だからこそ、

「地域問題」を「企業経営の問題」にする

という視点も重要です。


ウータンと住民団体が事業見直しを要請

2025年6月10日、ウータン・森と生活を考える会と「水沢・伊香保町の未来を考える会」は、

プロスペックAZ

みずほリース

中部電力

に対して、渋川バイオマス発電事業の見直しを求める要請書を送付しました。

要請の理由として、

水沢うどんや観光地としての価値。

限られた水資源。

騒音・悪臭など生活環境への懸念。

事故や大型車両によるリスク。

森林資源と燃料調達。

事業の経済的持続性。

などが挙げられています。

ウータン・森と生活を考える会「渋川バイオマス発電事業の見直し・ダイベストメント要請」


金融機関・投資家へダイベストメント要請

働きかけは事業者だけではありませんでした。

ウータンと地元住民団体は、関係すると考えられる金融機関や投資家に対しても、

ESGエンゲージメントの強化

を求めました。

さらに改善が見られない場合には、

投融資の見直し=ダイベストメント

を求めています。

要請先には、

みずほフィナンシャルグループ。

三菱UFJフィナンシャル・グループ。

三井住友フィナンシャルグループ。

農林中央金庫。

第一生命。

明治安田生命。

など、多数の金融機関・投資関連企業が含まれていました。


なぜ金融機関へ働きかけるのか

大型発電事業は、事業会社だけでは成立しません。

銀行融資。

出資。

投資。

設備調達。

など、多くの資金が必要です。

つまり、

事業を止めたいのであれば、事業者だけを見るのではなく「資金の流れ」を見る

ことも重要です。

これは、舞鶴や福知山のパーム油発電問題でも行われた方法です。

企業や金融機関に対して、

「この事業には地域住民との対立というリスクがあります」

「環境面のリスクがあります」

「事業性に問題はありませんか」

と伝えることで、資金提供側にも判断を求めます。

これがダイベストメント活動の考え方です。


「環境問題」を「事業リスク」へ変える

ここは渋川のケースから学べる重要なポイントです。

住民からすれば、

観光地を守りたい。

水を守りたい。

静かな生活を守りたい。

という問題です。

しかし企業や金融機関は、

事業性

という視点でも判断します。

住民説明が長期化する。

計画が遅れる。

行政手続きが進まない。

追加対策が必要になる。

企業イメージに影響する。

投資家から質問される。

株主総会で問題になる。

こうしたことは、

時間とコストの増加

につながります。

つまり住民が合法的に問題を可視化することで、

地域問題が、そのまま事業リスクになります。


そして2026年、中部電力が撤退

大きな転機となったのが2026年2月17日です。

中部電力は、

群馬県渋川市

を含む4つの木質バイオマス発電事業から撤退すると正式に発表しました。

中部電力は、自社の持ち分をプロスペックAZへ譲渡しました。

中部電力「バイオマス発電事業からの撤退」

中部電力が公式に説明した理由は、

当初想定していた運転開始時期が遅延する見通しとなるなど、「事業性の確保が困難」になったため

です。

2024年には、

2025年11月運転開始

としていた計画が、その予定どおりには進みませんでした。

そして、50%を出資していた大手電力会社が、

「事業性の確保が困難」

として撤退しました。


住民運動が撤退させたと断定はしない

ここは事実と私たちの評価を分けておきます。

中部電力は撤退理由として、

事業性の確保が困難になったこと

を公式に挙げています。

したがって、

「住民運動によって中部電力を撤退させた」

と単純に断定するものではありません。

しかし実際には、

地元住民が反対する。

事業見直しを求める。

環境NGOと連携する。

金融機関へ働きかける。

住民自身が株主になる。

株主総会で経営陣へ質問する。

という活動が行われました。

こうした活動によって、事業を取り巻く社会的なリスクが企業側へ伝えられたことは重要です。

私たちは、

住民が早い段階から問題を可視化し続けたことも、事業を取り巻く環境に影響を与えた一つの要素だった

と考えています。


大手出資企業が撤退し、計画は頓挫

中部電力の公式発表だけを見ると、持ち分をプロスペックAZへ譲渡した形になっています。

そのため、書類上は単純な、

「渋川バイオマス発電所計画そのものの中止発表」

ではありません。

また、事業者側のホームページにも計画情報が残っています。

しかし、現地住民はその後も事業者側へ確認を続け、この場所で事業を進めない旨の説明を受けています。

さらに、

発電所は未着工。

当初予定していた運転開始時期を超過。

50%出資していた中部電力が撤退。

中部電力自身が「事業性の確保が困難」と判断。

という状況を踏まえ、当サイトでは、

大手出資企業が撤退し、計画は頓挫

と整理します。


渋川も「初動」が重要だった

渋川のケースも、美作や明智町と共通しています。

それは、

住民が早く動いたこと

です。

計画が完成してから反対したのではありません。

発電所が稼働して被害が出てから動いたのでもありません。

計画段階から、

情報を集める。

外部へ相談する。

地域住民が主体になる。

事業者へ説明を求める。

環境NGOと連携する。

金融機関へ働きかける。

株主になる。

株主総会へ出席する。

という行動を積み重ねました。

初動が重要です。


「株主になる」という方法

渋川の事例で、今後ほかの地域にも伝えたいのが、

事業に関与する上場企業の株主になる

という方法です。

もちろん、どの案件でも使える方法ではありません。

事業者や主要出資企業が上場している必要があります。

しかし条件が合えば、

少額でも株を購入して株主になる

ことで、株主総会という正式な場へ参加できます。

株主として、

地域住民への説明。

環境リスク。

事業採算。

企業のESG方針。

地域との合意形成。

について質問することができます。

舞鶴では日立造船。

渋川では中部電力。

という形で、この方法が実際に使われました。


行政や議員だけに頼らない

渋川でも、美作・明智町と同じ教訓があります。

行政や議員には大きな力があります。

しかし、

反対運動そのものを行政や特定の議員へ任せてしまわない

ことが重要です。

住民自身が動く。

問題を地域で可視化する。

事業者へ働きかける。

行政・議会へ働きかける。

金融機関へ働きかける。

必要なら株主として企業経営へ働きかける。

さまざまな手段を組み合わせます。

どこか一つに、

「何とかしてください」

と任せるのではありません。


企業にとって「厄介な相手」になるとは

これは誤解されやすい表現なので、説明しておきます。

違法な妨害。

嫌がらせ。

脅迫。

営業妨害。

などをするという意味ではありません。

合法的に、

質問する。

資料を調べる。

説明を求める。

署名する。

メディアへ情報提供する。

金融機関へ情報提供する。

株主総会で質問する。

ということです。

これらは住民や株主として正当に行える活動です。

しかし事業者にとっては、

地域住民への対応コスト

説明コスト

事業遅延リスク

金融リスク

企業イメージのリスク

が高まります。

最終的に企業は、

「それでもこの場所で事業を進める価値があるのか」

を判断します。

渋川では最終的に、大手出資企業である中部電力が「事業性の確保が困難」と判断して撤退しました。


美作・明智町・渋川に共通すること

美作。

明智町。

そして渋川。

それぞれ計画内容も地域も違います。

しかし共通しているのは、

地元住民が早い段階から動いたこと

です。

明智町では、

計画初期 → 住民活動 → 勉強会 → 計画中止

となりました。

美作では、

計画初期 → 質問状 → 署名 → 情報発信 → 土地取得に至らず計画断念

となりました。

そして渋川では、

計画初期 → 相談 → 住民活動 → NGOとの連携 → ダイベストメント → 株主総会 → 大手出資企業撤退 → 計画頓挫

という流れになりました。

それぞれ方法は違います。

しかし、

初動が重要

という点は共通しています。

美作バイオマス発電問題|住民主体の初動で建設計画を中止へ

明智町バイオマス発電問題|住民の素早い初動で計画中止へ


成功事例ほど記録に残りにくい

発電所が建設され、

事故が起きる。

公害問題になる。

裁判になる。

事業者が倒産する。

という案件は報道されます。

一方、

住民が初期段階から動き、発電所が建たないまま計画が終わる

と、その後ニュースになりません。

住民側も、

「やっと終わった。もう忘れたい」

と思います。

事業者側も、進まなかった案件を積極的に広報する理由はありません。

その結果、

初動が早い

早く終わる

大きな社会問題にならない

報道が少ない

成功事例が知られない

ということが起こります。

だからこそ私たちは、こうした成功事例を記録として残していきます。


渋川・水沢バイオマス発電問題 主な資料

事業計画

中部電力「群馬県渋川市における木質専焼バイオマス発電所の開発について」

2024年10月15日公表。

所在地、1,990kWという発電規模、燃料、出資比率、2025年11月という当初の運転開始予定などを確認できます。

中部電力の撤退

中部電力「バイオマス発電事業からの撤退」

2026年2月17日公表。

中部電力は渋川を含む4事業から撤退。

理由として、運転開始時期の遅延見込みなどにより事業性の確保が困難になったことを説明しています。

地元住民・環境NGO

ウータン・森と生活を考える会「渋川バイオマス発電事業の見直し・ダイベストメント要請」

水沢・伊香保町の未来を考える会との連携、事業者への見直し要請、金融機関・投資家へのESGエンゲージメント・ダイベストメント要請などを確認できます。

観光情報

渋川伊香保温泉観光協会

水沢うどん、伊香保温泉、水澤観音など、地域の観光資源を確認できます。


現在の状況

渋川・水沢バイオマス発電計画

計画地:群馬県渋川市伊香保町水沢

発電出力:1,990kW

当初運転開始予定:2025年11月

発電所:未着工

中部電力:2026年2月に撤退

中部電力の撤退理由:事業性の確保が困難

現地住民:事業者側から当地で事業を進めない旨の説明を確認

→ 大手出資企業が撤退し、計画は頓挫

事業者側のホームページには、現在も計画に関する情報が残っています。

しかし、現地住民による事業者側への確認、中部電力の正式撤退、未着工の状況を踏まえ、当サイトでは、

「大手出資企業が撤退し、計画は頓挫」

と整理します。


私たちが渋川から学んだこと

渋川の事例から学んだ最大のことは、

初動が大切

ということです。

しかし渋川では、それに加えてもう一つ重要な経験ができました。

それは、

事業者だけを見ないこと

です。

事業者。

出資企業。

金融機関。

投資家。

株主。

行政。

議会。

メディア。

大型事業には多くの関係者がいます。

住民自身が、

地域で声を上げるだけでなく、

金融機関へ働きかけ、

株主になり、

株主総会へ出席し、

企業経営の場でも事業の妥当性を問う。

渋川は、住民主体の反対運動が企業・金融まで広がった非常に参考になる事例です。

そして最終的に、50%を出資していた中部電力が、

「事業性の確保が困難」

として撤退しました。


バイオマス発電計画を知ったら、早めにご相談ください

近隣で突然バイオマス発電所の計画が持ち上がった場合、

工事が始まってから考えるのでは遅い場合があります。

計画を知ったら、

資料を集める。

地域住民へ知らせる。

事業者を調べる。

出資企業を調べる。

金融機関を調べる。

住民自身が質問する。

地元メディアへ知らせる。

必要に応じて行政や議員へ働きかける。

そして、上場企業が関係しているのであれば、株主という方法もあります。

何より重要なのは、

地域住民自身が主体となり、できるだけ早く動くこと

です。

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